「専門家に聞く」という自然な判断が、裏目に出るシステムのことがわからないから、詳しい人に聞く。これは正しい判断に見える。 しかしシステムの話をベンダー(システム会社・SIer)に持ち込むと、たいてい「開発の話」になって終わる。社長が感じていた「このままでいいのか」という漠然とした問いは、気づけば「どんなシステムを作りますか」という話にすり替わっている。 なぜこうなるのか。そしてベンダーへの相談の何が問題なのかを、整理しておきたい。ベンダーの仕事は「作ること」であり、「やめること」ではないベンダーのビジネスモデルは、システムを開発・納品することで成立している。相談を受けた時点で、彼らは「どう売るか」を考え始める。 悪意があるわけではない。ただ、彼らにとっての「問題解決」は自然と「システムを作る」方向に向かう。「今のExcel管理で十分です」「まだ開発の段階ではありません」という結論を出しても、彼らに利益はない。 相談した社長が感じていた「何か変えなきゃいけない気がする」という曖昧な問いは、ベンダーの手によって「御社の課題に合ったシステムを開発しましょう」という具体的な提案に変換される。問いの性質が変わっていることに、社長は気づきにくい。「何が課題か」を決める前に、「何を作るか」の話になるベンダーとの打ち合わせはこう進みやすい。 最初の面談で、社長は現状の困りごとを話す。「FAXが多くて管理が大変」「担当者が辞めたら困りそう」「Excelがもう限界な気がする」。ベンダーはその話を整理し、「御社の課題はこういうことですよね」と言語化してくれる。これは助かる体験だ。 次の打ち合わせで、提案書が出てくる。機能一覧、スケジュール、費用概算。気づけば「このシステムを作るかどうか」という話になっている。 社長はその提案が妥当かどうかを判断する知識を持っていない。「高いな」とは思っても、「これは本当に自社に必要なのか」という問いに自信を持って答えられない。その状態で「では進めましょう」となる。情報の非対称性が、判断を難しくする医者に行って「手術が必要です」と言われたとき、それが本当に必要かどうかを患者が判断するのは難しい。セカンドオピニオンという文化が医療にあるのは、この非対称性があるからだ。 システムの話も同じ構造だ。 ベンダーはシステムについて詳しい。しかし社長の会社の業務については、社長の方が詳しいはずだ。ところが「システムの文脈」で話が進むと、社長は専門外の領域で判断を迫られる形になる。 この状態でベンダーの提案を正確に評価することは、非常に難しい。相談すべきでない、ではなく「その前にやることがある」ベンダーに相談してはいけない、と言いたいわけではない。タイミングの問題だ。 ベンダーへの相談が有効になるのは、「何を変えたいのか」が自社の中で明確になってからだ。そのためにはまず、今の業務の実態を自分たちで把握する必要がある。何がFAXで動いていて、何がExcelで動いていて、誰がその情報を持っているのか。その全体像が手元にない状態でベンダーに相談しても、ベンダー側の「提案の枠組み」に乗っかるしかなくなる。 「現状を整理する」という作業を、ベンダーに任せてはいけない。現状整理をベンダーにやらせると、その結果は必ず「開発の必要性」を支持する方向に傾く。まとめ──「何がわからないか」を整理してから、専門家の門を叩く社長が感じている「このままでいいのか」という問いは、正しい。その直感を大切にしてほしい。 ただし、その問いを持ったままベンダーに相談するのは早い。まず自社の現状を自分たちの言葉で整理する。今の業務フローはどうなっているか。どこに無理があるか。それが明確になれば、ベンダーに何を聞けばいいかも自然に見えてくる。 専門家を使うタイミングは、「何を聞けばいいかわかった後」だ。まず現状の業務・システムの実態を整理することが、改善の第一歩です。 当社ではAIを活用してシステムの仕様を解析・可視化する「システム現行調査(AI仕様解析)」を提供しています。 システム現行調査(AI仕様解析)についてはこちらhttps://likebird.jp/lp/genkou-chosa