「ITコストを削れないか」——こう言う経営者を、情シス担当者は「ITをわかっていない」と憤りたくなるかもしれない。しかしこれは誤りだ。経営者は「費用対効果が不明瞭なものは問う」という判断軸ですべてのコストを見ている。ITコストだけでなく、人件費でも、外注費でも同じだ。費用対効果が見えるものには投資し、見えないものには問う——これは経営判断として正しい。つまりITコストへの言及は、経営者が「ITを理解していない」ことの証左ではなく、「IT側が費用対効果を説明していない」ことへの合理的な反応だ。そこを起点にすると、情シス担当者に必要な説明の形が見えてくる。経営者がITコストに言及する3つの構造的理由1. 費用対効果が見えにくいコスト構造だから販促費や人件費は、使った結果がある程度見える。しかしITの保守費用・ライセンス費用・インフラ費用は、「問題が起きていない」ことが成果であるため、費用対効果が小さく見える。「問題が起きなかったこと」に対して費用を払い続けるのは高いのか安いのか——経営者にはそれを判断する材料がない。費用対効果が不明瞭な以上、問うのは当然だ。2. 「過去の誤り」が継続しているように見えるから特に、その費用が「過去に誰かが決めた契約の継続」である場合、経営者は「なぜその金額が必要なのか」を判断する材料を持っていない。現担当者自身も説明できない契約が続いている状況は珍しくない。これは経営者が「ITをわかっていない」のではなく、「説明を受けたことがない」状態だ。3. 「IT部門内で最適化する問題」と経営が認識しているから「ITのことは詳しくわからないので、IT部門に任せている」という認識がある経営者は、ITコストを「IT部門内で効率化すべきコスト」として位置づける。その結果、「削れないか」という問いが出やすい。これもまた、経営者の問題ではなく、情シス側が「経営の判断材料」としてIT全体の状況を共有してこなかった結果と言える。情シス担当者が陥りやすい罠経営者の問いを「ITをわかっていない」と受け取り、技術的な説明で返そうとすることだ。「このサーバーのスペックが…」「このライセンス体系が…」は、経営者の判断軸とずれている。経営者が必要としているのは「このコストを削ったときに何が起きるか」「このコストは何の業務を支えているか」に対する答えだ。それが居ないのに「削れない」だけを言い続けても、経営者の判断は変わらない。経営者の問いに正しく応える3つの構造1. 「削った場合に何が起きるか」を具体的に示す「削れない」ではなく、「削った場合、どの業務がどうなるか」をビジネスの言葉で示す。例えば、「この保守契約を解除した場合、障害時の復旧に数日かかる可能性がある」「このライセンスを削減すると、○部門の○業務が止まる」という形で、経営判断に必要な情報が参照可能な形になる。「問題が起きなかった」ことへの費用から、「問題が起きたときのコスト」との比較へと説明の構造を変えることで、判断材料が経営者に伝わる。2. IT全体の現状を「経営に見える形」で示す経営者がITコストに言及する最大の原因は、IT全体の全容が共有されていないことだ。何にどれだけ使っていて、どこがリスクで、どこを改善すれば対応できるか——これが整理されていれば、削れるコストと削れないコストの判断を経営者が自分でできるようになる。共有できていない以上、経営者が問うのは当然といえる。3. 「削れる部分」も一緒に提示する「削れない」だけを言い続けると、情シス部門が既得権を守っているように見える。「こちらは削減できる可能性がある」という部分も一緒に提示することで、全体の議論が建設的になる。重複しているSaaSライセンス、使われていないシステム、更新時期を迎えた高コストな契約——これらを自ら洗い出し、削減候補として経営に示すことは、コスト全体の議論に信頼性を与える。「説明できる状態」をつくるために経営者への説明が難しい根本的な理由のひとつは、情シス担当者自身が自社のIT全体の状況を体系的に把握・整理できていないことにある。IT全体の全容、各コストの根拠、リスクの所在——これらを整理することは、経営への説明のためだけでなく、引継ぎ・刷新・ベンダー交渉など、あらゆる場面で必要になる情報だ。現行調査は、こうした「経営に説明できる状態」をつくるための起点としても機能する。あわせて読みたい:前任者が去っても、役員会でシステム現状を報告できる資料のつくり方——経営・役員への説明に使える資料の整え方レガシーシステムを「塩漬け」にするコストを可視化する——ITコスト全体の議論を建設的にするための視点現行調査で何がわかるのか——IT全体像を経営に示すための情報整理IT全体の現状整理から経営説明の準備を始めたい場合は、現行調査サービスからご相談ください。