モダンな技術を導入しても、日本のレガシーシステム問題はほとんど改善していない——前回の記事でそれを数字で確認した。では、なぜこの構造は変わらないのか。よく聞く説明がある。「日本はIT人材の70%がベンダー(SIer)側にいる。米国はその逆で、ユーザー企業側にIT人材が多い。だから米国の方がレガシーシステムが少ない」というものだ。たしかに、この数字は事実だ。しかし、だからといって「ベンダー偏在がレガシー問題の原因」と言えるだろうか。日米のIT人材配置の違いは本当にあるか日本のIT人材の約72%はベンダー(SIer・ITベンダー)側に偏在し、ユーザー企業側は約28%にとどまる(IPA IT人材白書)。一方、米国ではユーザー企業側が約65%、ベンダー側が約35%と、構造が逆転している。この差は大きく、日米でIT人材の「居場所」が根本的に異なることは間違いない。そしてこの構造の違いがレガシー問題の原因だという論旨には、一定の説得力がある。しかし少し立ち止まって、米国の実態を見てみよう。米国もレガシーシステム大国であるIT人材がユーザー企業側に多い米国は、レガシーシステム問題を解決できているのだろうか。答えは、そうではない。米国政府のIT予算は年間約1,000億ドル(約15兆円)に達するが、その75〜80%が既存システムの運用・保守(維持費)に費やされている(GAO報告書)。日本と同じ構造だ。GAO(米国会計検査院)は2015年以来、「レガシーIT」を継続してハイリスク項目に指定し続けている。2019年のGAO報告書では、1960〜70年代に構築された重要レガシーシステムが複数稼働し続けていることが確認された。米国国防総省の一部システムは8インチフロッピーディスクを使用し、IRSの個人マスターファイルは1960年代のアセンブリ言語で書かれたままだという。民間でも同様だ。2022年12月、サウスウエスト航空は冬嵐の際に約16,900便を欠航した。根本原因は数十年来のレガシーな乗務員スケジューリングシステムで、直接損失は約8億ドル(約1,200億円)に達した。JPモルガン・チェースは年間120〜150億ドルをテクノロジーに投資しているが、その相当部分が今もレガシー近代化に充てられている。そして世界には今も約2,200億行のCOBOLが現役稼働中とされる(Micro Focus推計)。その多くは米国の金融機関や政府機関に存在する。相関と因果は違うここで整理しておきたいのは、相関関係と因果関係の違いだ。「IT人材のベンダー偏在」と「レガシーシステムの多さ」は、日本において確かに同時に観察される。しかしAがBを引き起こしているかどうかは、それだけでは言えない。たとえば、第三の要因Cが両方を同時に引き起こしている可能性がある。日本的な経営文化——コンセンサス型の意思決定、リスク回避傾向、専門職よりゼネラリストを重視するキャリアパス——は、「社内にIT専門人材を抱えず外部ベンダーに委託する」という判断と、「動いているシステムには触れない」という判断を、同時に生み出しうる。つまり、ベンダー偏在とレガシー保持はどちらも、同じ組織文化から生まれた「兄弟」かもしれない。一方が他方の原因というより、共通の根から派生した二つの結果という見方だ。さらに言えば、逆因果の可能性もある。複雑なレガシーシステムを抱えてしまったから、その保守を外部ベンダーに委託せざるを得なくなり、IT人材がベンダー側に集中した——という順序も、論理的にはありうる。原因を間違えると、問題解決までの時間が長引く「ベンダー偏在が原因だ」という見立てを正しいと仮定すると、対策は「IT人材をユーザー企業側に移す」ことになる。内製化推進、ITエンジニアの採用強化——これ自体は間違いではない。しかし米国は、そのIT人材配置を実現していながら、同じ問題を抱え続けている。ということは、人材配置を変えるだけでは問題は解決しないかもしれない。原因の見立てが間違っていると、対策も的外れになる。では、レガシーシステム問題の本質はどこにあるのか。「日本人は古いものへの執着が強いから」という説明についても、同じ問いを向ける必要がある。この記事はシリーズ「レガシーシステム問題を考える」全4回の第2回です。①モダンな技術を導入しても、レガシーシステム問題は解決しない②IT人材がユーザー企業側にいる米国も、レガシーシステム大国だった(本記事)③「日本人は古いものへの執着が強いから、レガシーシステムが多い」は本当か(掲載予定)④レガシーシステム問題は、2つの異なる課題が混同されている(掲載予定)現行システムの状況を把握する現行調査については、現行調査サービスからご相談ください。あわせて読まれています:現行調査でよく見る5つのパターン基幹システム刷新はなぜ失敗するのか