「また同じ店に来た」のに、前回の記録がない靴・鞄修理チェーンは、リピーターに支えられている業態だ。気に入った靴を長く使いたい、愛着のある鞄をまた直してほしい──そういう顧客が、何度も同じ店舗を訪れる。 しかし多くのチェーンで、「前回の修理内容」はどこにも記録されていない。 お客さまが「以前と同じようにお願いします」と言っても、担当スタッフが変わっていれば対応できない。前回どの素材を使ったか、どんな仕上げにしたか、特別な要望があったか──これらがスタッフの記憶にしかなく、店舗の資産として残っていない。 なぜこうなるのか。その構造を整理する。理由① 受付は「今回の対応」で完結し、記録を残す仕組みがない靴・鞄修理の受付は、スピードが求められる。お客さまを待たせずに預かり票を書き、修理内容を確認し、納期を伝える。この一連の流れの中に、「履歴を記録する」という工程が入っていない。 預かり票は修理が完了して引き渡したら役割を終える。控えが手元に残るケースもあるが、それは請求や確認のためであり、顧客ごとに整理・蓄積されるわけではない。 結果として、顧客情報は「今回の取引」だけに閉じている。次回来店したとき、スタッフはゼロから確認し直す。リピーターも新規客も、受付の手間は変わらない。理由② センターに送った修理の「進捗」が、店舗からわからない靴・鞄修理チェーンには、店舗内で完結する即日修理と、専門工場(センター)に送る本格修理の二種類がある。 問題は後者だ。センターに送った修理品の進捗状況が、店舗側からリアルタイムでわからない。「今どの工程にあるか」「いつ戻ってくるか」は、電話やFAXで確認するしかないことが多い。 お客さまから「もうできましたか?」と問い合わせが来たとき、店舗スタッフはセンターに電話して確認し、折り返す。この確認コストが積み重なると、スタッフの業務時間を静かに奪っていく。店舗数が増えるほど、センター側の対応も逼迫する。理由③ 部材・在庫の管理が、店舗ごとにバラバラになっている靴・鞄修理では、ヒール、ソール、ファスナー、革素材など、多様な部材を在庫として持つ。修理の内容によって使う部材が変わり、補充のタイミングも異なる。 この在庫管理が、店舗ごとに独立したExcelや手書き台帳で行われていることが多い。本部が全店舗の在庫状況をリアルタイムで把握できないため、「A店には余っているがB店では切れている」という状況が発生しても、横断的な調整ができない。 部材が足りなくなって初めて発注する「後手の管理」が続くと、納期遅延や機会損失につながる。根本にあるのは「店舗完結」の設計思想3つの理由に共通しているのは、業務の設計が「店舗完結」を前提にしていることだ。 1店舗だけで運営していた頃には、それで問題なかった。スタッフは顧客の顔と履歴を覚えていた。在庫は目で見て管理できた。センターとのやり取りも、電話一本で済んだ。 しかし店舗数が増え、スタッフの入れ替わりが増え、センターへの送り品が増えると、「店舗完結」の設計は限界を迎える。情報が店舗ごとに孤立し、本部からは全体が見えない状態になる。 これを変えるための出発点は、現在の情報の流れを一店舗だけでいいので丁寧に追うことだ。受付からセンター、センターから店舗、店舗から本部へ、何がどう流れているかを書き出す。その作業が、設計を見直す議論の土台になる。当社ではまずはどの課題から取り組むべきかを客観的に整理するシステム運用課題診断を提供しています。 こちらもよろしければご覧ください。システム運用課題可視化診断