「動いているから問題ない」——レガシーシステムの扱いについて、こう判断している経営者は少なくない。実際、システムが止まっていないなら、切迫した課題に見えにくい。しかし塩漬け状態には、貸借対照表に載らないコストが積み上がっている。本記事では、レガシーシステムを維持し続けることで発生する「見えないコスト」を、経営判断に使える形で整理する。「塩漬け」とは何かここでいう塩漬けとは、システムの刷新や見直しを先送りにしたまま、現状維持を続けている状態を指す。サポート切れのOSやミドルウェアで動き続けているケース、担当者しか触れない状態で何年も運用されているケース、業務フローとシステムの乖離が広がり続けているケースなど、形はさまざまだ。共通しているのは、「問題が起きていないように見える」という点だ。しかしこれは、コストが発生していないことを意味しない。塩漬けが生むコストの4つの類型1. 保守・維持コストの固定化と肥大化古いシステムほど、保守に手間がかかる。対応できるベンダーや技術者が減るため、単価が上がる。サポート切れ環境を維持するために特別な契約が必要になることもある。一方で、このコストは「毎年かかっているもの」として経営の目に馴染んでしまい、見直しの対象になりにくい。5年前と同じ金額を払い続けているように見えても、その間にシステムの対応範囲は狭まり、リスクは積み上がっている。2. 属人化によるオペレーションコストレガシーシステムは、長期間の運用の中で特定の担当者に知識が集中しやすい。その担当者が対応しなければ進まない業務、その担当者しか判断できない例外処理——これらは、組織として見えにくいオペレーションコストだ。担当者がいる間は問題として顕在化しない。しかし退職・異動・長期休暇のタイミングで一気に露呈する。その時点で初めて、「このシステムを誰も触れない」という現実に直面する会社は多い。3. 業務とシステムの乖離が生む非効率システムが変わらない間も、業務は変化する。新しい商品・新しい取引形態・組織変更——これらに対応するため、現場はシステムの外で帳票を管理し、手作業で転記し、Excelで補完する。こうした「システムに頼れない業務」の積み重ねは、人件費として現れる。ただし、その非効率がシステムに起因していることは、多くの場合、経営には見えていない。「そういう業務だから手間がかかる」として処理されてしまう。4. 機会損失——できないことへのコスト最も見えにくく、最も大きい可能性があるのが機会損失だ。データ連携ができないために分析が遅れる。新しい販売チャネルへの対応に時間がかかる。競合他社が自動化している業務を、自社は手作業でこなし続ける——これらは、売上や競争力への直接的なインパクトだが、「システムのせい」として経営の議題に上がることは少ない。仕組み化を積み上げて成長してきた企業ほど、次の成長ステップでこの壁にぶつかりやすい。再現可能なモデルをさらに拡張しようとしたとき、システムがボトルネックになっているケースだ。経営として「塩漬けコスト」を把握するために4つの類型を整理したが、これらを自社の数字として把握している経営者はほとんどいない。なぜなら、これらのコストは複数の部門・科目に分散しており、「レガシーシステムに起因するコスト」として集計されていないからだ。把握するための第一步は、現状のシステムと業務の実態を整理することだ。どのシステムが何の業務を担っているか、どこに属人化があるか、どこでシステム外の対応が発生しているか——これらが整理されて初めて、塩漬けコストの輪郭が見えてくる。「今すぐ刷新する」という結論を急ぐ必要はない。しかし「現状を把握しないまま現状維持を続ける」ことは、判断ではなく先送りだ。経営として塩漬けコストを認識することが、次の意思決定の出発点になる。あわせて読みたい:なぜ基幹システムの刷新は予算オーバー・遅延・頓挫するのか——塩漬けを解消しようとしたときに起きる失敗の構造現行調査で何がわかるのか——塩漬けコストを把握するための現状整理の進め方自社のレガシーシステムの実態把握から始めたい場合は、現行調査サービスからご相談ください。