タクシーに乗るたびに、広告がAIサービスばかりになった。そう感じる人は多いのではないか。「AIで48時間でシステムが作れる」「ノーコードで業務アプリが完成する」——そういった声は、今や珍しくなくなった。だが、ここで一つ問いを立てたい。AIが「作る速度」を上げるとき、企業の中に積み上がる「技術的負債の速度」はどうなるのか。AIは"作る速度"を上げた。"負債の速度"も上がっている。従来のシステム開発では、一つの基幹システムを立ち上げるのに数ヶ月から数年を要した。それがレガシーシステムとして問題化するまでには、システム稼働後10年から20年のスパンがあった。AIを活用した開発では、システムの骨格を数日で作ることも現実になりつつある。これは確かに便利だ。しかし逆説がある。作るのが早くなれば、陳腐化するのも早い。仮に3日で作ったシステムが、5年後に「誰も触れない資産」になっていたとする。それは20年かけて作ったシステムが陳腐化するのと同じ問題を、4分の1の時間で引き起こす。開発の民主化は、レガシー問題の民主化でもある。今後5年で、「AIで作ったが誰も引き継げないシステム」が大量に発生することは、現時点でほぼ確実に予測できる。日本企業が今まさに直面しているレガシー問題の実態を知る経済産業省が2018年に発表したDXレポートは、「2025年の崖」という言葉で警鐘を鳴らした。既存の基幹システムが老朽化・複雑化・ブラックボックス化し、対処できなければ2025年以降に最大で年間12兆円の経済損失が生じる可能性があるという試算だ。現場の実態はどうか。多くの企業で、システムの設計書は10年以上更新されていない。本番環境と設計書の内容が乖離し、担当者の頭の中だけに「本当の仕様」が存在する。そのベテランが定年退職を迎えれば、仕様は会社から消える。IT人材の高齢化も加速している。システムを理解しているのは50代以上の担当者だけ、という状況は珍しくない。引継ぎのタイムリミットは、すでに始まっている。AIが読めるのは「何が書いてあるか」だけだと知るAIはコードを読む。ドキュメントを生成する。処理の流れを図にする。こうした作業をAIは人間より速く正確にこなせる。だが、AIが答えられない問いがある。「なぜこの設計になったのか」「この処理を止めると、どこが止まるのか」「この例外処理は何年前の何の対応で入ったのか」——これらは、コードの外側にある文脈だ。過去の意思決定、組織の事情、業務の変遷がシステムに刻まれた「痕跡」であり、解釈は人間の専門家にしかできない。そして最も重要な点は、AIは責任を取れないということだ。現行調査の結果をもとにシステム刷新の判断をする場面で、「AIが言ったから」では組織は動かない。経営者に説明できる専門家の存在が、今も明日も必要だ。レガシーシステム専門家の価値はAI時代に上がる新規開発が民主化されるほど、需要が増えるスキルがある。「引き継ぐ能力」だ。AIツールを使えば誰でもシステムを作れるようになる。だが、誰かが作ったシステムの全体像を把握し、問題点を整理し、次の担当者に渡せる状態にする——この仕事ができる人間は、増えない。「作れる人」の希少性は下がる。「引き継げる人」の希少性は上がる。AI時代に最も価値が上がる専門性の一つは、最も地味に見えるレガシーシステムの現行調査と引継ぎ支援なのだ。AI時代だからこそ、レガシー専門家と組むAIは強力な道具だ。だが、AIが作る速度を上げれば上げるほど、既存資産の棚卸しと引継ぎの問題は深刻化する。その解決を「AIに任せればいい」とはならない。当社はAIを使いこなしながら、レガシーシステムの現行調査と引継ぎを専門に支援しています。今のシステムが把握できていない、引継ぎのタイムリミットが迫っている、そう感じている方はぜひご相談ください。システム現行調査(AI仕様解析)システム引継ぎラボ