2018年に経済産業省が発表した「DXレポート」が警告した「2025年の崖」。レガシーシステムの問題が放置されれば、最大で年間212兆円の経済損失が生じるという試算は、多くの企業に「システム刷新を急がなければ」という緊張感を生みました。では2026年——崖は来たのでしょうか。現実は「崖は来た、しかしまだ続いている」という姿です。「2025年の崖」が警告したこと2018年、経済産業省が発表した「DXレポート」は、日本企業のシステムが抱える構造的な問題を「2025年の崖」として可視化しました。警告の核心は2点でした。ひとつは、多くの基幹系システムが2025年頃にサポート終了を迎えること。もうひとつは、システムを内側から理解している技術者・担当者が高齢化・退職により急速に減少し、「誰も分からない」状態が加速するということ。この2つが重なる時期として「2025年」が示されました。対応を先送りすれば、年間最大212兆円規模の経済損失が生じ得る——という試算は、経営層にも情シス担当者にも「さすがに動かなければ」という空気を作りました。その後、2022年には「DXレポート2」が発表され、「2025年問題」は DXの文脈でさらに広く認知されました。IT投資への意識は確かに高まりました。では、実際には何が起きたのでしょうか。グリコが証明した「崖の現実」2025年、最も象徴的な事例として語られたのが江崎グリコのシステム障害です。2024年4月、グリコは基幹システムをSAP S/4HANAへ移行しました。しかし移行後に深刻な障害が発生。プッチンプリン・カフェオレなどの主力冷蔵製品が、スーパーや量販店の棚から約4ヶ月にわたって消えました。物流管理・受発注システムが正常に機能しない状態が続き、売上への影響と消費者への混乱は大きなものになりました。グリコの事例が「2025年の崖」との関連で語られた理由は、これが「システムを刷新したことで起きた障害」だったからです。レガシーシステムを放置したまま問題が起きたのではなく、刷新プロジェクト自体がリスクになった。つまり「崖を渡ろうとしたら落ちた」という構図です。これは多くの企業に警鐘を鳴らしました。現行システムの実態が把握できていない状態で刷新に踏み込むと、移行リスクが制御できなくなる。グリコの事例はその現実を、最も大きなスケールで示した事例となりました。「崖は来なかった」は本当か一方で、、2025年を過ぎた時点で「思ったほど崖はなかった」「2025年問題は大げさだった」という声も聞かれます。この見方には一定の根拠があります。ひとつは、「2025年」に特別なシステム的事情があったわけではない、という指摘です。サポート終了のタイミングはシステムによって異なり、「2025年」が特定のシステム群の一斉期限になっていたわけではありません。崖が「この年に一日に来る」というものではなかった。もうひとつは、「大企業を中心にシステム刷新は着実に進んだ」という事実です。大手銀行・製造業・流通業などでは、2020年代前半にかけて基幹システムの更新が実際に進みました。少なくとも「何もしなかった」企業の割合は減っています。しかし、これは「崖が解消された」とは異なります。大企業が動いたとしても、中堅・中小企業、そしてグループ子会社・関連会社では状況が全く異なります。2026年の現実——崖は終わっていない2026年時点のデータが示すのは、「崖はまだ続いている」という事実です。複数の調査によれば、企業の6割前後がいまだレガシーシステムを抱えた状態にあります。「刷新が必要と認識している」が「まだ動いていない」企業が多数存在します。特に従業員規模が小さい企業・グループ内子会社・地方企業では、この傾向が顕著です。技術者・担当者の高齢化問題も進行しています。「このシステムを分かっている人が定年で来年退職する」という状況は、2026年においてもあちこちで起きています。むしろ、2025年前後に退職ラッシュが来た現場では、「あの人が分かっていたのに、もういない」という事態がすでに発生しています。さらに、グリコの事例が示したように、「刷新に踏み込んだ」企業でも移行リスクの管理に失敗するケースが出ています。現行システムを把握せずに刷新すると、移行コストと障害リスクが予測不能になる。この構造的な問題は2025年以降も変わっていません。「崖は2025年に来て終わった」のではなく、「崖の縁に立ったまま、一歩ずつ崖の方向に歩いている」というのが、2026年の現実に近い描写です。「2025年の崖」から「現行調査」へ——今すべきこと※現行調査を進める前に、なぜ多くの刷新プロジェクトが失敗するのかを把握しておくことが重要です。「なぜ基幹システムの刷新は頓挫するのか」で失敗パターンを確認してください。「2025年問題」という言葉が生まれた背景にあった本質的な問題は、今も変わっていません。「現行システムの実態が把握されていない」「担当者の知識・ノウハウが属人化している」「刷新の優先度が経営課題として上がっていない」——この3点です。大きなプロジェクトを一気に動かす必要はありません。しかし「まず現状を把握する」ことは、いつでも始められます。今どんなシステムが動いていて、どこに依存があって、どこにリスクがあるか——これを整理することが、崖への対応の起点です。現行システムの実態を把握しないまま刷新に進むことがリスクである、ということはグリコの事例が実証しました。逆に言えば、現状を正確に把握することが、刷新を安全に進めるための前提条件です。「2025年に乗り遅れた」という感覚がある場合も、今からでも遅くはありません。「2026年以降が本番」という認識で、まず現状整理から始めることが現実的な第一歩です。「どこから手をつければいいかわからない」という方は、「基幹システム刷新の第一歩|現場で使える準備チェックリスト」から始めることをお勧めします。ライクバードでは、グループ子会社・中堅企業向けのシステム現行調査(AI仕様解析)を提供しています。設計書がない・ベンダーに依存している・社内に詳しい人がいないという状況でも、AIを活用した仕様解析でシステムの実態を把握します。「まず現状を整理したい」「刷新を検討する前に土台を作りたい」という段階からご相談ください。→ システム現行調査(AI仕様解析)について詳しく見る