はじめに当社はある大手ドラッグストアチェーン様の基幹システムのAPI基盤の保守開発を担当させていただいています。元々は別のコンサルやSIをされる会社様にて開発をされていたのですが、クライアント様にて内製化をされていきたい、しかし他社開発システムで受けてくれるところが無いというところから、先方様の立場として内製化チームの一員となって対応してくれる会社を探しているということで、ご縁があり、対応させていただく運びとなりました。当社は過去に何度か他社のシステム開発会社様が開発され、3ヶ月から半年ほどかけてドキュメントやソースを確認し、タスク管理や運用フローの現状を整理することから始め、足りない設計や仕様、ナレッジを現場ごとに整備していく。ときにはリファクタリングもしながら、徐々に自社で安定運用できる体制を作り上げてきました。今回もその時に経験してきた知見を活かしてご支援ができると考え、お話を伺い、実際に参画したメンバーたちがチームに加わることになりました。エンジニアメンバーからすれば、自社で一から開発していないシステムを引き継ぐというのは正直リスクも多く、難しさもあります。そこで、必要な引き継ぎ期間を設け、エンジニア以外のディレクターを間に立てることで、クライアント企業様や元々のシステム開発会社様との必要なコミュニケーションラインを確保し、クライアント企業様ともこまめにリスクの確認と合意形成を取りながら進めることで、保守開発を受け継ぐということを行ってきました。1. そもそもなぜ“引き継ぎシステム開発・内製化支援”に挑戦したのか私はもともと開発会社で営業やPMを経験していました。開発会社というのは、基本的には「作って利益を得る」ことがビジネスモデルの根幹です。抱えているエンジニアの稼働率――つまり“誰が何時間、開発作業をしているか”――が一定割合を下回らないように管理し、それによって利益が決まる。逆に、稼働率が下がれば下がるほど、会社としての利益はどんどん削られていく。だからこそ、採用も“作れる人”を基準に行い、みんな「開発」という分かりやすいアウトプットを求めて現場に入るのが当たり前でした。ですが、そんな現場に「他社が開発したシステムを引き継いでほしい」という話がくると、新規開発のような効率的な“流れ作業”ができなくなります。「ソースを調査する」「タスク・チケットの履歴を紐解く」「見慣れないフレームワークや設計思想に触れる」――本来エンジニアが想定していないプロセス、正直“面倒くさい”仕事が一気に増えるのです。多くの開発会社は、開発プロセスを標準化し、そこに沿ってみんなで動くからこそ利益が出る組織・仕組みを作っています。この“効率”が崩れる仕事は、どうしても「やりたがらない」のが現実です。一方、当社は幸か不幸か、まだそこまで開発組織の仕組みが完全にできあがっていない。逆に言えば、「新規開発以外の、引き継ぎ・調査・現場改善」のような、“普通は利益が出にくいからやりたがらない”領域にも着手できる柔軟さがあったと言えるかもしれません。また、当社では請負契約ではなく工数ベースの業務委託を中心にしているため、予期せぬ課題や調査事項が発生しても、その範囲内で柔軟に対応しやすい土壌もあります。もちろん問題が大きければ追加工数としてご相談することもありますが、「必要な調査や環境整備を途中で止めずにやり切れる」仕組みを、現場と一緒につくれました。こうした環境・契約・規模感の“隙間”が、結果として「引き継ぎシステム開発・内製化支援」に挑戦できた理由になったのだと感じています。2. “偶然の成功”と、現場での挑戦一方で、何でもかんでも考えなしに他社開発のレガシーシステムを調査・改善していくのは、先端テクノロジーを追いかけたいエンジニアの場合、キャリアや経験が積みにくいのでは?という懸念も感じていました。この件については様々なエンジニアとも会話を続けていく中で、1つの解が見えてきました。新しい技術やモダンな言語を追いかけたいエンジニアもいれば、長年現場を支えているレガシーな技術や運用の改善にやりがいを感じる人もいる。どちらが正しいという話ではなく、今は「現場の選択肢」「キャリアの広がり」がどんどん増えている時代だということが見えてきました。私自身も、現場ごとの課題や文化の違いに向き合うなかで、「技術」だけでなく「現場を支えるふるまい・文化・改善力」こそが、これからのエンジニアにとって新しいキャリアの一つになるのでは――と考えるようになりました。そうしたこともあり、当社では「安心安全な開発」を目指して、技術そのものよりも“開発プロセス”に着目した知見――特に「アジャイル開発」の導入・実践に力を入れるようにしてきました。開発言語ではなく「どうプロジェクトを進め、チームで知恵を積み上げていくか」。次世代のエンジニア像として、“作る”だけでなく“改善・ふるまい”を価値にする動きを大事にしてきました。なぜアジャイルなのか。それは開発の初期見積もり段階では不確実性が高く、ウォーターフォール請負だと途中の仕様変更や追加が「開発側の自己責任」になりがち工数ではなく「チームの生産性(ベロシティ)」で見積もり、柔軟にゴール設定をし直すことで、ブレやリスクを最小化できるという、“現場の安全”を守るためのノウハウが詰まっているからです。そんな中で、今回ご縁をいただいた企業さんは、開発環境もモダン、アジャイル開発も実践している現場でした。当社としても「こういう環境でどこまで挑戦できるか」と意欲的に取り組むことができました。もちろん、物事はスムーズにはいきません。アジャイルといっても、クライアント側は全体スケジュールや納期も必要とされ、完全なアジャイル実行環境ではありません。履歴や設計思想が十分に残っていないことも多く、キャッチアップや現場整理に手間取る場面もありました。現場メンバーの中には、「最低限Readmeには残そう」「バックログ管理はこうやって履歴を残す」…など、自発的にルール作りや改善を進めるエンジニアも出てきました。それでも、エンハンスやミドルウェア対応、環境整備の工数は限られ、日々の“使える工数との戦い”が続きます。レトロスペクティブ(振り返りミーティング)も、やらなければ内製化のベロシティは最適化されないと分かっていながら、機能開発とのバランスに苦労します。指示の下りてくる機能開発ばかりに追われれば、「内製化」は遠ざかる一方です。本来は当社が会社として「内製化のために必要な機能開発以外の取り組み」――たとえばスクラムマスターやプロセス設計、ナレッジ管理――もパッケージ化して、お客様に同意いただいた上で体制化していくのが理想です。しかし現状はまだ、“エンジニアの思いと意志”に助けられ、支えられています。こうした“ふるまいの積み重ね”が現場にどんな変化を生んでいるのか、正直、私自身がすべてを実感できているわけではありません。時折現場メンバーの声を聞き、そしてお客様からのお褒めの声を聞き、「何か前よりも動きが良くなった気がする」と思う瞬間もあります。でも、それが“社長の願望”なのか、本当に現場の空気が変わっているのか、外から見ている自分には確信を持てないことも多いです。だからこそ、現場で毎日向き合ってくれているエンジニアたちの意志や、「小さくても現場が変わる瞬間」を、もう少ししっかり言語化して、皆と共有できるようになりたいと思っています。3. まだまだ“完成形”には遠い。今も現場で学びながら形にしている今回の取り組みを通して、「現場の思い・意志で支えてくれているこの変化や知見を、仕組みやサービスとして他の企業・現場にも届けられないか?」と考えるようになりました。とはいえ、私たちが目指している“引き継ぎシステム開発・内製化支援”は、いわゆるパッケージ化された完成品にはまだなっていません。現場で日々生まれるエンジニアのふるまいや、「記録が残る」「レビューの観点を共有する」「ドキュメントを整える」といった文化をどう根付かせるか そして提供するものを明確にし、そこから得られる成果をどう定義して、どういう価値を感じてもらうのか――自分たちの現場経験だけで“押し付ける”のではなく、関わるお客様・現場と一緒に、“何が本当の価値か”を対話しながら磨いていきたいと思っています。そしてその“再現性”を少しずつ商品として磨いていこうとしている途中です。スキルや人数の補充だけではなく、「現場の文化」や「価値観の積み重ね」こそが、長期的に現場を支える力になり、結果、それを求めるお客様のためになる――そう信じて、今も試行錯誤を重ねています。4. 現場ごとに、一緒に“ふるまい”を育てていく仲間を募集他社開発システムの引き継ぎ、現場の改善、ドキュメントや設計文化の定着――正直なところ、これらは誰もが「やりたい」と思える仕事ではないかもしれません。“面倒くさい”“難しい”“できれば避けたい”と感じる現場が多いのが現実です。それでも今、「現場の“もろさ”や属人化を本気で変えたい」「安心して“現場を託せる仲間”を増やしたい」そう願う企業やエンジニアが、少しずつ増えてきているのを感じます。今回の現場で、偶然にも生まれた小さな成功や学びを、「ただの偶然」で終わらせず、“再現できる仕組み”として、現場ごと・仲間ごとに一緒に磨き上げていきたい――そう強く思うようになりました。私たち自身もまだ“完成形”を持っているわけではありません。だからこそ、「引き継ぎシステム開発・内製化支援」という名のもとで、現場で手を動かし、改善を繰り返し、失敗も共有しながら、共に育てていける仲間そして「今の現場を本気で変えてみたい」と思う企業の方と、一緒に実験していけたら嬉しいです。5. おわりに――未完成の現場から、理想の現場文化を育てる挑戦へ現場で偶然生まれた小さな成功体験や学びを、これからの“引き継ぎシステム開発・内製化支援”という新しい価値へと、少しずつ形にしていきたいと考えています。とはいえ、私たちが取り組んでいることは、まだまだ学びと実験の連続です。現場での課題も失敗も、決して美談だけでは語れません。それでも「現場を変えたい」「属人化や引き継ぎで悩んでいる」「自分の“ふるまい”をもっと価値にしたい」そう感じているエンジニアや企業の方がいれば、まずは情報交換や相談から、一緒に新しい現場づくりにチャレンジしていけたら嬉しいです。“正解”や“完成品”ではなく、共に現場で悩み、気づき、時には遠回りもしながら、本当の意味で「現場を支える文化」を、一緒に育てていく仲間を心から募集しています。また、“現場の引き継ぎ・改善”や“内製化支援”で悩んでいる企業様・エンジニアマネージャーの方、まずはお気軽にご相談・ご連絡ください。