1. 「何かお手伝いできることはありませんか?」と伝えた日ゆめみでは商品があった 独立後はフリーランスの「自分」が商品「株式会社ゆめみ」では「モバイルのシステムが作れます」「スマートフォンアプリ開発とサーバーサイド開発ができます」「ユニクロのアプリを作ってます」ということ実績と商品をぶら下げて営業活動をすることができていた。しかし独立を決めた直後、当然ながら「商品」も「実績」もなかった。むしろ今までは「他の人がやる」ことが商品だった。今度からは「自分がやる」ことを商品にするしかない。スキルや経験はあるが、それをどう人に伝えていいかもよく分かっていなかった。ただ、自分には「発注側の論理」と「開発現場の現実」の両方を理解し、両者の言い分を並べ、ズレの正体を言語化していくことができることはわかっていた。「月1〜2回のMTGと資料作成で月数万円、システム開発会社向けの営業支援」。今はこれしかない。とにかく動く必要がある。携帯の連絡先と名刺、Facebookの友達リストを開いた。会社員時代につながりのあった人たちに連絡を取り、挨拶の名目で会ってもらう。名刺に記載された企業名はすべて“会社員としての自分”のものだったが、今は“個人”として向き合わなければならない。そのことに一抹の不安を感じつつも、「自分はこういうことができます」という準備もないまま、ただ「何かお手伝いできることはありませんか?」と伝えていった。小売業の知人に会ったとき、「実はECを立ち上げる構想があって」と返ってきた。想定外の反応に驚きながらも、「自分のようなデジタル人材が、こういうところで重宝されるのかもしれない」と感触を得た瞬間だった。しかし、そのまま時は過ぎていった。何か動かないと何も状況は変わらない。次に何をアクションしたらいいのか。そうか、提案書が必要だ。お客様候補となる知人の方からしたら、「何を解決するためにどのくらいの期間でいくらかけるのか」という承認を取るための論理がいる。会社員時代なら、社内の雛形や他の人の提案資料を参考にしながら進められた。でも今は、自分が新たにお客様を説得するための、最初の一枚目から提案を組み立てなければならない。今までの会社員時代に培ってきた営業活動で作ってきた見積書・提案書を思い出していった。契約条件、金額、作業範囲、それが生み出す今後の価値の見通し。今まではパワポを作ることは正直得意ではなかった。やらなくていいならやりたくない仕事の1つだった。しかしどういうわけか今は違う。これをやらないと数ヶ月後に資金がなくなる。やる以外の選択肢がない。自然とパソコンに向かって集中している自分がいることに気づいた。2. 提案書をつくるという行為が、自分を鍛えてくれた“売る”ことより、“考えること”。プロフェッショナルとしての最初の仕事は、提案書づくりだった。最初に作った提案書は、お世辞にも“洗練されていた”とは言えなかった。構成も粗く、お客様の抱えている課題に対しての解像度が粗い。今見返すと、「それっぽい」ものでしかない。それでも、その時の自分にとっては「何かを形にすること」がすべてだった。パワポを開き、何をどう書けばいいか分からないまま、とにかく手を動かした。やるべきこと、今特定すべき課題を並べ、相手に伝えたい、訴えかけたいことを整理し、スライドに文字を乗せていく。文字が多くなりすぎる。図にしてみる。これを繰り返していく。それは、自分の考えを掘り起こし、構造を整理し、新たな気づきを得るための作業だった。何度も書いては消し、配置を直し、言葉を選び直す。そうしてようやく完成した提案書を相手に説明する。「やりましょう」という言葉をいただく。考えに考え抜いた「課題設定」。ここさえできれば後の条件面は交渉・調整事項。なによりも「芯を食った」課題提起が必要なのであると肌で感じた。奥底から喜びが込み上げてくる。今までは提案書の枠に当てはめていた。でもそれは、社内の誰でも一定の水準で提案できるように整備された“仕組み”だった。あの頃の自分は、その型を使っていたに過ぎない。だが今、自分がゼロから提案書を作る立場になって、初めて理解した。——その“型”を作るには、課題の本質を捉える力が必要なのだ。そう思った瞬間、提案という仕事の見え方が変わった。これは単なる営業行為ではない。自分の視点や言語化の力を通じて、相手の頭の中を整理するプロセスなのだ。提案の本質は、そこにある。繰り返すうちに、提案書づくりは自分の中で「苦手な作業」ではなく「没頭できる創造活動」になっていった。パワポが、提案が、自分の“最初の商品”を生み出すのだと理解した瞬間だった。3. 「相談される」という関係性を作ることが次への道につながる1件、2件と提案書を作るうちに、「営業しなきゃ」という気持ちよりも、「この人にとって何が大事かを一緒に考える」ことに意識が向くようになっていった。そんな頃、初期の提案先のひとりから、ふいにメッセージが届いた。「いまちょっと相談したいことがあって」。その一言が、妙に心に残った。会社員時代は、”自分から営業をする・仕掛ける”というものだと考えていた。“相談される存在”というのは当時の社長が担っており、自分はそこから来た引き合いを形にする営業も行っていた。”仕掛ける”・”その後形にする”が中心だった。独立後、最初は嫌でも”自分から営業をする”必要がある。しかし、別でお客様のお仕事を、自分という商品を提供しながら、新しい営業活動をしていくのは正直時間が取れない。「相談される」状態を作ることが重要なんだと。そして、相談に乗るとは「答えを持っている人」になることではなく、「一緒に考えられる人」であることなのだと感じた。肩書きがなくても、売り物が明確でなくても、問いに対して仮説を立て、言葉にする力があれば、誰かの前に立つことができる。そしてその関係性は、自分の側からでも、作っていけるのかもしれない。この感覚こそが、自分がフリーランスとしてやっていけるかもしれないと思えた、最初の実感だった。そしてその後、本当に、次の仕事が“相談”から始まっていくことになる。4. 「商品がない」と悩んでいるあなたへ伝えたい「自分には何も売るものがない」——そう思っていたあの頃の自分に、今ならはっきりと言えることがある。商品がなくても、肩書きがなくても、最初の一歩は踏み出せる。売れるスキルがないと感じている人ほど、「相手の話を丁寧に聞き、考え、一緒に形にする」ことができる。実はそれ自体が、最初の“商品”になる。多くの人は、商品があるから営業できると思っている。けれど、実際には逆だった。誰かの困りごとに耳を傾け、自分の視点で整理し、「こうしたらどうか?」と言葉にすること。それを繰り返しているうちに、自然と「できること」が形になっていく。そして、その過程で信頼が生まれ、次の相談、次の仕事へとつながっていく。今、目の前にある名刺、連絡先、友達リスト——そのどれもが、誰かの“相談相手”になるきっかけかもしれない。独立の最初の一歩は、誰かの話を「聞いてみる」ことから始めてもいい。だからこそ、もしあなたが「自分には何も売るものがない」と感じているなら、焦らなくていい。その感覚こそが、「誰かと一緒に考えられる人」になるスタートラインだと思う。5. 私たちは、そんな“一歩目”を支える場を用意している私たちは、週1からでも関われる相談ベースの案件を、常時集めています。「フリーランスは、商品と肩書きがなければ始まらない」——そんな思い込みに囚われず、まずは“話すところ”から始められるような環境を用意しています。相談を受けながら、考えながら、一緒に形を作っていく。そのプロセス自体が仕事になる。そんな実感を、ここで味わってもらえたらと思います。もし、「今の自分でも動き出せるかもしれない」と思えたなら、ぜひ一度、私たちに話しかけてみてください。まずは、一緒に考えることから始めましょう。