はじめにデータドリブンな意思決定が重要視される現代のプロダクト開発。しかし実際の現場では、専任のデータ分析チームが確立されていない、あるいはマーケティングや開発チームの中で“なんとなく”その役割を担っているケースが大半です。その結果、分析に必要なログ設計やデータ整備が後手に回り、仮説検証や意思決定のスピードを落としてしまうという課題に直面している方も多いのではないでしょうか。本記事では、こうした現状をふまえ、データ分析とエンジニアリングの境界を曖昧にし、役割を横断した協業体制を築くチーム設計のポイントを解説します。分析チームがない/育っていない状態でも実践可能な現実的なアプローチを中心にご紹介します。境界が明確なチームの課題データ分析と開発が別チームで動いている場合、次のような問題が発生しがちです:開発チームは「ログをどこまで取ればいいか」がわからない分析チームは「仕様がわからない」まま生ログと格闘するイベント命名や粒度に一貫性がなく、後々の分析に支障をきたすプロダクト改修のたびに分析基盤の修正が必要になるそして現実には、「分析チームがそもそも存在しない」ケースの方が多く、次のような問題も浮かび上がります:分析の役割が曖昧なままマーケターやエンジニアに委ねられている分析やトラッキングの設計が開発後に“あとづけ”されてしまう分析を担当する人がツールやSQLに詳しくなく、限界がある分析やトラッキングの設計が開発後に“あとづけ”されてしまうことも多く、これがプロダクト成長における深刻な“分析負債”を生み出す原因となっています。一度リリースされた機能に対して後からログを追加しようとすると、ユーザーの操作ログが取れていない、設計上埋め込めない、ログの粒度や命名が既存の設計と合わず整合性が取れない、といった問題が次々と発生します。この“あとづけ文化”は短期的には負荷を軽減しているように見えても、長期的には分析可能性を毀損し、改修のたびに仕様確認と実装修正が必要になるという二重のコストを発生させます。こうした事態を避けるには、ログ設計を後工程に追いやるのではなく、企画や開発と並列に設計する体制を築くことが重要です。境界を曖昧にするとは?境界を曖昧にするとは、役割を曖昧にすることではありません。それぞれの専門性を尊重しつつ、チームとしての一体感や協業体制を強化することを意味します。特に分析専任者がいない現場では、役割の“重なり”を許容しながら以下のような協力体制を構築することがカギになります。マーケターやPdMが分析観点を持ち、イベント設計に関与するエンジニアが分析ツールやデータの活用方針に一定の理解を持つチーム内で共通の指標やKPI、命名規則を運用するチーム設計のポイント1. 分析設計の初期からの関与新機能の要件定義段階から、誰が分析視点を担うのかを明確にしておきます。専任分析者がいない場合は、PdMやマーケターが主導し、エンジニアと共同で「どんなデータが後で使われるか」を設計します。2. ペア設計・レビュー体制の導入開発と分析(またはその役割を担うメンバー)の2名で、トラッキング設計やイベント設計をレビューします。命名規則や粒度、ユーザー識別の取り扱いなどを対話しながら決めることで、実装と分析の間の齟齬を減らします。3. ドキュメントの共通化と継続的メンテナンスNotionなどで分析設計やイベント定義、KPI一覧を可視化・共有します。ログ仕様が属人化してしまうことを防ぎ、開発・マーケティング・分析のいずれの立場からも理解・更新できる状態を保ちます。4. 成果指標の共通化"ログを実装した" "分析ができる状態にした"ではなく、"誰がそのデータを使って何を改善できたか"に重きを置いた評価体系を取り入れます。分析不在の組織では、マーケやPdMの目標とデータ整備の目的が乖離しないよう、定期的な振り返りが効果的です。5. ツールの壁を下げるSQLが書けない人でもデータ活用できるよう、Mixpanelなどのノーコード分析ツールの活用や、テンプレートダッシュボードの整備を進めます。分析専任者がいない組織では、こうした環境整備が意思決定の高速化に直結します。まとめデータ分析とエンジニアリングの境界を曖昧にすることで、分析チームがいなくてもプロダクトの改善サイクルを止めずに回すことができます。それは「誰が担当か」ではなく「チームでどう機能として成立させるか」という発想です。現実的には、分析チームを新たに立ち上げるよりも、既存の開発・マーケティング体制の中に“分析機能”をどう組み込むかが重要です。役割の垣根を越えた協業を可能にするチーム設計が、データドリブンな意思決定を支える土台となるのです。